りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

異星人の郷(マイクル・フリン)

イメージ 1

中世終盤の1348年。英仏百年戦争はまだ序盤戦でフランスが大敗したころ。ローマ教皇アビニョン捕囚の最中。イタリアはルネサンス前夜。ドイツでは諸王家による神聖ローマ帝国皇帝位の争いが続いていました。そしてこの年、ヨーロッパの主要都市はペスト禍に襲われました。こんな時代に、シュバルルバルト高地にある小村で、密かにファーストコンタクトが行われていたという物語。

著者は、中世は決して迷信と腐敗と病気がはびこっていただけの暗黒時代ではなく、論理とルールが大切にされていた時代だったと述べています。そんな著者の主張を反映して、まるでガーゴイルのような風貌で、悪魔と思われても仕方のないような異星人を、この中世の村は理性的に受容するのです。

ウィリアム・オッカムとも親交のあったディートリヒ神父は、トラブルで地球に漂着した異星人を博愛主義で受け入れ、自然哲学の精神で未知の文化を受け入れます。地域の小領主もまた、利害関係を重視した結果とはいえ異星人を保護し、頑迷な村人たちとの橋渡しを行います。しかしそんな辺境の村にも、人間たちにはペスト禍が、異星人たちには地球には存在しない必須アミノ酸の欠乏という事態が迫っていたのでした。

本書の原型は、本来なら村が存在すべきであった場所が空白になっていることに疑問を抱いた現代の統計歴史学者が、光速変動理論を主張する物理学者のパートナーにインスパイアされて思いついた仮説を検証していくという短編だそうです。その部分を生かしながら、中世の物語を全面的に加筆した本書は、中世ヨーロッパの科学観・宗教観や地道な異文化交流を描き込んだ力作になりました。地味ですけどね。

2014/11