りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

大いなる不満(セス・フリード)

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1980年生まれの若い著者が作り出す奇妙な世界には、不思議と居心地良さを感じます。作家としてはこんな評価は不本意かもしれませんが、バランスがいいのです。「日常世界と陸続きの不条理」とでもいう感覚でしょうか。ただし、うっかり境界を超えてしまうと、怖い世界が待っています。

「ロウカ発見」:古代のロマンを感じさせるミイラの発掘によって浮き立った研究者の心は、彼を殺害したと思しき巨人ミイラの発見によって急速に萎んでしまいます。科学者が情熱と信念で暴走してゆく様子がいいですね。最近の日本でもこんなことがあったのでしょうか。

「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」:毎年、大惨事や大殺戮が起こる不条理なピクニックに、今年もまた参加してしまうのはなぜなのでしょう。

「ハーレムでの生活」:絶世の美女たちが集うハーレムに放り込まれた1人の醜男。彼はどのように王に奉仕するのでしょうか。そしてそれは何のために?

「格子縞の僕たち」:猿をカプセルに入れるだけの単純作業者は、他の部署の仕事の出発点なのですが、皆から蔑まれているのです。そんな単純作業すら上手くできなかった僕らは、最下層の仕事から這い上がることなど望めません。

「征服者の惨めさ」:残酷ことは嫌いだし、黄金だって差し出されるのに、南米征服という仕事に就いたからには、殺人や凌辱という行為は必然なのです。残酷さを偽ると、部下もほっとした顔をしてくれるのですから。

「大いなる不満」:理想郷エデンに住む動物たちにも、本来の自分が持つ欲望に気づいて不安になる瞬間がありました。原罪を犯しそうになったのはイブだけではなかったのです。

「包囲戦」:長期にわたって包囲され、限界状況が続いている城市。なぜ最終攻撃は行われないのか。降伏は求められないのか。ひょっとして敵も滅びようとしているのか。意味のない妄想が繰り返されます。

「フランス人」狭量な教師が指導した差別的な演劇は、保護者からの訴訟を招き、教師はクビに。しかし、その演劇でフランス人役をノリノリに演じてしまった僕は、どうしたらよいのでしょう。

「諦めて死ね」:何かに呪われたように怪死や不幸が続く一族に生まれた僕も、無慈悲で無意味な運命に身を委ねなければならないのでしょうか。

「筆写僧の嘆き」:古書の筆写と比べると、目の前で起こる出来事の叙述には、なんと主観が入り込んでしまうことなのでしょう。それに気づいてしまった僧は、聖書にも疑いを抱かざるを得ません。

「微小生物集-若き科学者のための新種生物案内」:研究者が恋に陥るほど魅力的な微生物、平均寿命1億分の4秒の微生物、観察もできず存在も立証できない微生物、ブラックホール並みの高密度で群生する微生物、イデオロギーで殺し合う微生物・・。哲学的な奇想を詰め込んだ架空の微生物カタログです。

2014/11