りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

凜(蛭田亜紗子)

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札幌市出身の著者による「北海道の黒歴史」です。もともとは、網走の遊郭出身で後に市会議員となった実在の女性をモデルにした作品を書こうと思ったそうですが、遊郭で生きる女性と、トンネル工事のタコ部屋で生き抜く青年の2人を主人公とした物語に仕上がりました。

大正時代、北の大地の最果てに流れて来る者は、もちろん「ワケアリ」です。一人息子を知人に預けて遊郭へと向かう八重子と、食い詰めた学生崩れでタコ部屋へと送られる途中の麟太郎の運命は、青函船で一瞬交差したものの、生き延びるだけで精いっぱいの暮らしの中では、甘い恋愛感情など生まれる余地はありません。

やがて八重子は息子の死を知らされ、麟太郎は死者が続出する工事現場の厳しい現実に直面し、それぞれに逞しく生き抜くことを自分に誓うのですが・・。

本書は、大学生の上原沙矢が、恋人と行くはずだった旅先で出合った書物と石碑を手掛かりに、過去の歴史を調べるに至ったという構成になっています。一足先に社会人になっていた沙矢の恋人がブラック企業で心身を病むという「平成パート」からは、大正時代の悲劇が決して遠い過去の物語ではないことも伝わってきます。過去に生きた人たちの思いを知った沙矢が、現代社会を強く生き抜くパワーを得たと思いたいものです。

2017/10