りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アキラとあきら(池井戸潤)

イメージ 1

2017年の出版ですが、雑誌に連載されていたのは2006年から2009年にかけて。空飛ぶタイヤ鉄の骨と同時期であり、この作品と並行してオレたちバブル入行組オレたち花のバブル組の「半沢直樹シリーズ」も書き進められていたわけです。

本書は、生まれも育ちも違うふたりの「アキラ」の物語。ひとりは零細工場の息子・山崎瑛であり、もうひとりは大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。小学生の時に工場が倒産して夜逃げする瑛を、高級車の中から眺めていた彬は、やがて銀行に同期入行することになります。新入社員研修で出された問題に対して、全く異なるアプローチながらともに卓越した回答を出して伝説となった2人の運命が、次に交錯するのは、さらに10数年後のことでした。

30年という長いスパンで描かれるライバルの物語というと、ジェフリー・アーチャー『ケインとアベルを思わせますが、2人は対決するわけではありません。バブル期のリゾート投資に大失敗し、さらに加えて相続問題をこじらせて経営危機に陥った東海郵船を救済するために協力し合うのです。銀行を辞めて家業を継ぎ、苦境に挑む道を選んだ階堂彬を、銀行に残って東海郵船を担当することになった山崎瑛は、救うことができるのでしょうか。

2人が練り上げた再建策は、不振リゾート施設の再建を前提とするものであり、正直言ってかなり実現性が厳しいものと思われます。銀行が実際にこれで融資をしてくれるかどうか、しかも一時はライバル行に走った融資の肩代わりまでしてくれるかどうかは疑問ですが、そこが問題ではありませんね。ふたりの「アキラ」が、それぞれに自分の運命を乗り越えていく成長物語なのですから。

2017/10