りぼんの読書ノート

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花のお江戸で粗茶一服(松村栄子)

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「粗茶一服シリーズ」がついに完結。第1作の雨にもまけず粗茶一服が2004年で、第2作の風にもまけず粗茶一服が2010年の出版ですから、6~7年周期でじっくりと書き継がれたシリーズといえるでしょう。

主人公は、弓・剣・茶の「三道」を伝える「坂東巴流家元」の嫡男である友衛遊馬。スカイツリーの建設が始まった2007年に、家出先の京都から帰還した時点で20歳。父親の跡を継いで家元となる覚悟がまでできていないのは、貧乏零細の流派であることが理由ではありません。まだ自分が目指すものが見えていないのです。

もちろん遊び暮らす余裕もないので、スカイツリーの警備員に収まりながら修行を継続。京都から上京してきて友衛家の内弟子になったガールフレンドの佐保は、遊馬の父親で当代家元の秀馬がかつて目指していた皇宮警察にあっさり合格してしまいます。そのことはすんなり喜べるものの、遊馬との関係は進展しません。友衛一族や京都宗家の巴家ゆかりの者たちをはじめとする、曲者ぞろいの茶人・武人にやりこめられている遊馬は、同じところをぐるぐる回っている感じ。

5年を要したスカイツリーの建設過程が、遊馬の成長を象徴しているようですね。高い塔を建てるには、長い時間をかけてしっかりとした基礎を固めなくてはなりません。地に足がついていないようでありながら、迷う過程をおろそかにしなかった遊馬にとっては、色んな人と出会ったことが成長を促してくれたようです。第1作の頃とは、だいぶ変わりましたね。次第に味わい深さを増していったシリーズでした。

2018/11