舞台は中世ヨーロッパのような架空の世界。2つの月というと『1Q84』を思わせますが、とりたてて共通点はありません。人類に近い亜人も棲み、魔獣や魔剣も登場するハイファンタジーですが、随所に架空のグルメが登場することから「グルメエピックファンタジー」と銘打たれています。
本書の主人公は、長年仕えたテルシア領主の家を引退し、金も名誉も捨てて辺境へと旅立った老騎士バルド。旅の共は長年連れ添った愛馬スタボロスのみ。見知らぬ土地を訪れ、珍しい食べ物に舌鼓を打ちながら、死に場所を探す旅のはずだったのですが、運命は彼を放っておいてはくれませんでした。バルドが新国王の跡継ぎ問題の鍵を握っていると思い込んだ、辺境の大領主コエンデラ家に付け狙われてしまうのです。しかもそこには、彼が娘のように慈しんだ領主の娘・アイドラ姫も関係していたのです。
コエンデラ領主は時代劇に登場するような典型的な悪役なのですが、バルドと関わる剣鬼ヴェン・ウリル、怪盗ジュルチャガ、壁剣の使い手ゴドンなどの脇役のキャラは、それなりに立っています。亜人や魔獣などが存在する世界の仕組みは不明ですが、続編以降で明かされていくのでしょう。
惜しいのは「グルメファンタジー」なのに、架空の食材ばかりなのでイマイチ食欲が刺激されないこと。ホロホロ鳥やイワナなどを連想させる名前がついているものはまだしも、全くイメージが湧かないものもあるのです。ともあれ、『第2巻』以降の展開にも期待しましょう。
2018/11