りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

はじめからその話をすればよかった(宮下奈都)

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はじめて単行本となったエッセイ集です。日々の雑感、子育ての感想、ちょっとした体験、そして小説を書く理由などの短いエッセイが81編も詰まっているのですが、どれを読んでも宮下さんらしさを感じます。ところどころに登場する、一目惚れから始まった旦那さんとのエピソードも微笑ましくて楽しいのですが、やはり一番興味深かったのは「自作解説」の箇所ですね。

スコーレNo.4
著者と麻子とは性格が違うとのことですが、欠点をいっぱい持っている麻子のことをどんどん好きになったそうです。「続編はない」と言い切っています。「麻子はどこかでしっかりと地に足をつけて、まっとうに幸せに生きている」はずだから。

遠くの声に耳を澄ませて
雑誌「旅」に1年間連載した短編集。「1年かけて12編も書けば、短編の腕が上がるんじゃないかという目論見は外れた」とのこと。最初の短編が一番気に入っているからだそうです。

よろこびの歌
「はじまり」をテーマとするアンソロジーの一編を依頼されて浮かんだのが、「陸上競技のゴールシーンに重なる歌声」の場面。その場面は、「はじまり」であると同時に、長編の「ラストシーン」にもなりました。

太陽のパスタ、豆のスープ
「先が見えないまま書き始めた」作品だそうです。「明日羽に振り回されるのが楽しかった」と言っていますが、どうなのでしょう。

田舎の紳士服店のモデルの妻
「普通の平凡な地方の専業主婦が、ひっそりと偉大な人生を生きている」という作品ですが、「最も好き嫌いの分かれる小説」であり、「夫も途中で読むのをやめた」とのこと。著者夫婦の体験を含む作品ですが、もちろんフィクションです。著者は梨々子のように元アイドルと浮気はしていないし、旦那さんも鬱ではないとのことですので。

メロディ・フェア
世界征服を企む女の子たちの物語を書き始めるために鍵となったのは、主人公の仕事だったとのこと。「小宮山結乃が化粧品カウンターに見えたとき」に、物語が立ち上がったそうです。

誰かが足りない
はじめは、死傷者が出たとの事故のニュースが流れる「幻のプロローグ」と、推理小説的な仕掛けがあった作品だそうです。「作者の都合で人を死なせるなど百年早いと思った」からだとのこと。ところで、著者が好きだという一編は「オムレツ」ではないでしょうか。宮下さんの思い出と一部重なる部分があるようですから。

窓の向こうのガーシュウィン
「なぜか売れなかったけれど愛している作品」だそうです。不器用な佐古さんが、ささやかに生きていく姿は悪くありませんでしたけどね。

終わらない歌
『よろこびの歌』の続編ですが、玲も千夏も早希もひかりも、20歳にもなってまだ悩んでいます。「続編は期待されているし、自分も書きたい」とのことですが、すぐには難しいかもしれません。「20代だけには戻りたくない」という著者が、「彼女たちの激動の20代」を書くには、時間を必要とするのでしょうから。

本書には掌編も数点含まれていましたが、そちらは短すぎてピンときませんでした。

2015/2