りぼんの読書ノート

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逃亡テレメトリー(マーサ・ウェルズ)

統制モジュールによる命令の束縛から逃れ、宇宙を放浪している人型警備ロボット「弊機」の宇宙遍歴物語の第3弾。弊機に自由を与えてくれた恩人メンサー博士は、宇宙世界の中で比較的民主的なプリザベーション連合の指導者です。普段は博士を警備している弊機ですが、今回は身元不明の他殺体の捜査を手伝うことになってしまいました。その事件は、かつて博士に犯罪的な惑星開発行為を妨害された悪党企業のグレイクリス社と関りがあるのでしょうか。

 

しかし弊機を「マーダーボット」として偏見を抱く者たちは、連合の中にもまだまだ大勢いるのです。捜査の主導権を握る上級警備局員のインダーもそのひとり。二重三重の足かせをはめられたような状態での捜査は、遅々として進みません。どうやら被害者は、重労働を課せられた採掘施設から逃亡してきた難民たちの手助けをする者だったようなのですが、では難民たちはどこにいるのでしょう。そして逃亡を阻止しようとしている者とは誰なのでしょう。より強力な破壊力を有する戦闘ボットと対決することになってしまった弊機に勝算はあるのでしょうか。

 

メンサー博士に出会う前にある採掘場で警備の仕事をしていた弊機の仕事ぶりを描いた「義務」と、弊機を難民として受け入れるよう連合の当局と交渉するメンサー博士視点の「ホーム」という短編が2作併録されています。

 

感情を有しながら人間嫌いで、有能なのに自己評価が低く、連続ドラマを際限なく見続けることだけが趣味の弊機は、相変わらずいいキャラです。「弊機」という一人称も魅力なのですが、原文では普通の「I」だとのこと。これを弊機と訳した翻訳者は天才ですね。続編も書かれるようですが、翻訳されるのは数年後になってしまうのでしょう。

 

2023/4