りぼんの読書ノート

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地形で見る江戸・東京発展史(鈴木浩三)

地理学・地質学的な側面から街の成り立ちを探ることをテーマとすることが多いTV番組「ブラタモリ」で、江戸・東京は何度も取り上げられています。本書は、東京都水道局中央支社長である著者が、その分野に専門的に迫った解説書です。

 

ページをめくるとまず目に飛び込んでくるのが、国土地理院の赤色立体地図です。ここで強調されている東京の窪地や低地に、江戸城の外堀をはじめとする主要な濠がすっぽり収まっていることに驚かされますね。江戸城は土地の高低に従って築かれたことが示されているわけです。神田・玉川上水や、野火止用水のルートも同様ですし、江戸時代の水道の桶線ルートが土地の高低にピッタリと重なる等高線図も、合理的な街づくりの痕跡を窺わせてくれます。江戸前島の痕跡を浮かび上がらせる国土地理院の色別標高図では、「ブラタモリ」のアシスタントが「銀座じゃん!」と叫んだ場面を思い出しました。

 

本書では、江戸・東京の成り立ちを地形から捉えるのみならず、歴史・政治・経済・文化などのさまざまな側面から明らかにしています。地形は、地震・洪水・大火の被害と大きく関わり、山手線や中央線のルートを決定する要因となり、さらには運河の掘削や工業用地・住宅地の開発、人口増加を支えたインフラの整備とも大きく関わっているわけです。

 

新書としてはかなり野心的な内容を含んでいるのですが、私にような素人には少々詰め込みすぎに思えたことも事実。せめて江戸時代と明治以降は別の本にして欲しいと思った次第ですが、著者はさらに未来に目を向けていたようです。すなわち「持続可能な社会、永続可能な都市へのアプローチに貢献」するためには、これだけの内容が必要だったのでしょう。もともと新書の目的は「関心を惹く」ことなのでしょうから、それには十分以上に貢献しているわけです。

 

2023/4