りぼんの読書ノート

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わたし、定時で帰ります。ライジング(朱野帰子)

シリーズ第1作では会社に定時帰宅を認めさせ、第2作では体育会系ブラック企業である取引先の体質まで変えてしまった東山結衣は、マネージャーに昇格。しかし彼女の前に現れた新たな敵は、なんと部下たちだったのです。

 

残業手当のために不要な残業をする「生活残業」というのは、昔からありますね。会社やクライアントに不要は支出を強いるだけでなく、残業をしている本人が「できない人」扱いされるリスクを孕んでいるのですが、なかなか根絶できませんね。時間給から成果給に変えるとか、基本給を大胆に上げるなどの抜本的な人事給与制度改革が必要なのですが、部下に適当な約束をしてしまった結衣の苦戦が始まります。

 

それだけではありません。結衣の婚約者の種田晃太郎は、地方支社のトラブル対応のための長期出張が長引いて、結婚の目途が立たないまま。代わりに支社からやってきた年配の部下は、できない理由を探して何もしない「仕事しないおじさん」であるだけでなく、陰では結衣を批判している様子。旧弊を打破する困難に加えて、何もしない人たちのために頑張ることに嫌気を憶えてしまった結衣は、社長が期待する新しいロールモデルであり続けることができるのでしょうか。

 

生活残業」も「変化忌避」も「働かないおじさん」も古くからあるテーマであり、日本の労働生産性を引き下げている要因です。この問題が解決できない限り「失われた30年からの脱却」も「働き方改革」も「政府主導のベースアップ」も夢物語にすぎないでしょう。あまりにも都合のよい展開ですが、本書の内容をフィクションのままにしておいてはいけません。「非効率な業務の最期の聖地」である官公庁担当となる結衣の、次の活躍にも期待しています。

 

2023/4