ロードノヴェルというと、広大な北アメリカや、国境が入り乱れる欧州の旅を思い起こしますが、日本だって捨てたものではありません。登場人物の思いを乗せて車は走るのです。ただし実際に走ったことがある道が大半なので、旅のスリルが半減してしまう感じが漂うのは仕方ありません。
「田舎のポルシェ」
東京といっても八王子の奥地は旧弊が染み付いた農村地帯。とっくに捨て去ったはずの実家では両親も兄も亡くなり、相続してしまった水田を耕作してくれた隣人のもとに、収穫米を引き取りに行く女性の話。大型台風が迫る中、友人が紹介してくれた強面ヤンキーの運転する軽トラで岐阜から八王子を目指す旅は波乱万丈なものになりました。長時間の旅の間には、互いが抱えた事情もつい話してしまいそうです。
「ボルボ」
不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合して、廃車寸前のボルボで北海道に旅行。しかし片方の男性には思惑があったのです。それは北海道出張中の若い妻の動向を探ることだったのですが・・。事情はどうあれ悋気はいけませんね。思いがけない事件でボルボが天寿を全うできたのは良かったのかどうか。
「ロケバスアリア」
「憧れの歌手が歌った会場で歌いたい」という老女の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走ります。孫息子に運転させて東京から浜松を往復する日帰り旅のはずでしたが、アクシデントで宿泊することになってしまいました。これが最後の仕事というDVD制作会社の老社員の情熱と、事情を抱えた老女の思いが交差します。
2022/5