りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

床下仙人(原宏一)

イメージ 1

著者はギタリストやコピーライターを経験して作家デビューしたものの、才能の限界を感じて断筆。ところが1999年に発表した本書が「啓文堂書店おすすめ文庫大賞」に選ばれたことから、再び作家の道を歩むことにしたという異色の経歴を持っています。そのくせ本書は、サラリーマンの悲哀を描いた作品が中心になっているというのが、不思議な感じです。

「床下仙人」
念願のマイホームに入居したものの、片道1時間40分。残業も徹夜も出張も多く、家庭を顧みることができなかったサラリーマンの妻子を癒してくれたのは、床下に住んでいる仙人だったのです。しかも床下に住むという仙人は増殖中であり、やがて全てを失った男も・・。

「てんぷら社員」
支社から転勤してきた風采のあがらない平の老社員が、強引な商法で出世した専務を追い落とすというのです。彼なぜそんな力を持っているのでしょう。偽学生のことを「衣だけ着ているてんぷら学生」という言葉は、もはや死語ですよね。

「戦争管理組合」
女性入居者が8割を超えるマンションが、住民投票の結果、男社会を倒すために闘うとして猟銃をもって立てこもることになってしまいます。数少ない男性入居である主人公は、どうしたらよいのでしょう。他の作品と比べても、この展開には無理がありますね。

「派遣社長」
派遣社員が増える中、社長が派遣であってもかまわないはず。「所有と経営の分離」の究極の姿ともいえますが、2か月おきに経営方針が変わってしまうのは辛すぎます。

「シューシャイン・ギャング」
失業した中年男が、路上で突然靴を磨いて料金を取るという商売を始めた少女と知り合います。2人は疑似家族のような暮らしを始めるのですが・・。どの作品も小市民的な個人の問題をコミカルに描きながら、真のテーマは社会問題であるのが、この著者の作風のようです。

2018/5