りぼんの読書ノート

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おもてなし時空ホテル(堀川アサコ)

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「職探し中の若い女性が不思議な職を得る」というのは、『幻想郵便局』以来、著者が得意とする書き出しですが、本書もその類型。一般人の桜井千鶴が採用された、北日本のとある都市でひっそりと営業する「はなぞのホテル」には、過去や未来から来た「時間旅行者」しか宿泊させないとのルールがあったのです。 

 

もちろんハードSFではないので、設定はユルユルです。このホテルは、未来に発明されるタイムマシンの出口であり、「国際時空管理機構」職員がMIBそっくりの姿で歴史を歪めないように見張る仕組みなどもあるのですが、そこは突っ込むところではありません。謎なのは、時間旅行を許される者の基準です。千鶴がおもてなしをする相手は、よりによって問題ケースばかりなのですから。 

 

現代に慰安旅行に来た春日局などは、クセが凄いけれどマシなほう。孫の結婚式場に乗り込んで新郎を殺害しようとする老婆や、他人が過去に書き上げた作品を奪おうとする小説家志望の青年や、父親のせいで妹が不幸になったと思い込んで過去を変えようとする男性など、時間旅行しちゃいけない者ばかりが泊まりに来るのですから。しかもこのホテルには、自力で過去からやってきた「時の仙人」まで棲みついているのです。 

 

そして「時の仙人」からドラゴンボールらしき龍玉を取り返しに来た明国皇帝・朱元璋が、大事件を巻き起こそうとしていたのです。そして、ほっこり感覚を唯一の武器にして問題解決に翻弄される千鶴の前に、全くの一般人である好青年との見合い話も起こるのですが・・。 

 

『幻想シリーズ』の類似作品であり、展開も軽いけれど、著者独特の世界観はしっかり現れています。シリアスな作品の合間には、こういう小説を読みたくなるのです。「ゴブラン織りのソファ」がタイムマシンであることと、春日局石川さゆりの大ファンであることがツボでした。 

 

2020/4