りぼんの読書ノート

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アクティベイター(冲方丁)

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「マルドゥック・シリーズ」や「シュピーゲル・シリーズ」などのSF作品や、『天地明察』や『光圀伝』などの時代小説を書いてきた著者ですが、現代日本を舞台とする小説ははじめてだそうです。

 

物語は衝撃的です。突如飛来した中国の最新鋭ステルス爆撃機の女性パイロットが亡命を希望したことで、自衛隊機の護衛のもと羽田空港に着陸。しかしヤンと名乗る女性パイロットは、事情聴取にやってきた警察庁幹部に対して、ステルス機には核爆弾が搭載されていると告げるのです。これは亡命なのか、テロなのか、宣戦布告なのか。しかも彼女は護送中に何者かに拉致されてしまうのです。

 

中国の工作員、ロシアの暗殺者、アメリカの情報将校、韓国の追跡手が暗闘する中で、囚われた彼女を救出したのは民間警備会社の警備員にすぎない真丈という男でした。実は彼は作戦で妹を失って休養中のアクティベイターなのですが、それはどのような役割を担っている者なのでしょう。その一方で、羽田に設置された対策本部では警察庁防衛省、外務省、経産省などの思惑が交錯し、アメリカの意向も定かではない中で凄まじいマウンティングが繰り広げられます。真丈の義弟である警察庁の鶴来警視正は、義兄と連携を取りながら事態の収拾を図るのですが、そこで浮かび上がってきたのはとんでもない陰謀だったのです。

 

著者は半世紀前の「ベレンコ中尉亡命事件」をモチーフにしたそうです。米ソ冷戦中の1976年に最新鋭機で北海道に飛来して亡命を希望した事件は、米中の覇権争いが「新冷戦化」しつつある現代では、どのような意味を持つことになるのでしょう。ちなみに著者は連載開始後に自衛隊員の方から「これはひとりでは飛ばせない」との指摘を受けて、ストーリーに変更を加えたとのこと。駐機している爆撃機の中にもうひとり潜んでいるというイメージは怖いですね。異形の戦闘者こそ登場しませんが、アクションシーンも楽しめる本書は、山田風太郎賞を受賞しています。

 

2022/2