りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アコーディオン弾きの息子(ベルナルド・アチャガ)

f:id:wakiabc:20200922095212j:plain

スペインのバスク地方と言うと、内戦時代のゲルニカ無差別爆撃や近年まで続いた独立武装紛争のイメージが強く、地域全体が「反フランコ・反スペイン」という印象を持ってしまいます。しかしそこには多種多様な主義主張が入り乱れているのです。「クレスト・ブックスはじめてのバスク語文学」と紹介される本書では、長い年月をともにすごした2人の男性の友情を軸にして、バスク地方の波乱に満ちた近現代史が描かれます。

 

1999年のカリフォルニア。「この牧場で過ごした日々ほど楽園に近づいたことはなかった」と妻と娘たちに言い残して病死した男は、家族にも読めないバスク語で書き回想録を遺していました。その男ダグの長年の友人で今は作家になっているヨシェバは、未亡人から回想録を託されて「アコーデオン弾きの息子」という物語を紡ぎあげます。

 

スペイン内戦が終わって25年が過ぎた1965年。15歳の少年だったダビは、叔父の言葉や友人の家で見た秘密のノートから、闇につつまれた過去に気づいてしまいます。今では町の顔役のひとりとなっている父親のアンヘルは、共和派の人々をフランコ軍の幹部に売り渡して銃殺させたのでしょうか。保守派の戦没者のみを讃える慰霊碑の除幕式でアコーデオンを弾くように、ダビは父親から命じられるのですが・・。

 

さらに5年後、大学生となっていたダビやヨシェバらは、さらに過激なバスク解放闘争に身を投じることになります。慰霊碑の爆破、スペイン国旗焼き捨て、町の有力者が所有するホテル放火事件が起きる中で、友人が治安警備隊に殺害され、ダビたちはフランスに亡命。再度スペインに潜入した際に警察に逮捕されてしまうのですが、そこには複雑な事情がありました。そしてダビは生涯、その事実を知ることがなかったのです。

 

二重三重の入れ子構造。ダビの回想録とヨシェバの加筆との差異。実際に起こった出来事とフィクションとして綴られた物語との相違。牧歌的な村のたたずまいに隠された内戦の影のように、バスク問題の複雑さが小説の複雑な構造に反映されているかのようです。これまで150冊を超える「クレストブックス」を読みましたが、こういう作品に当たると嬉しくなります。著者の代表作とされる寓話的な『オババコアック』も読んでみましょう。

 

2020/10