りぼんの読書ノート

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寿宴(南條竹則)

本来は英文学者であった著者ですが、中国文学や中華料理に造詣が深いことはよく知られています。1993年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『酒仙』は酒飲みの桃源郷を描いた作品でしたし、その賞金で『満漢全席』まで開いてしまった食通なのですから。

 

その続編ともいえる本書は、著者の分身である南蝶氏こと「でふ氏」が「満漢全席」に続いて企画した大宴会を描いた物語。場所はかつて南宋国の首都であり、食都としても名高い杭州喜寿を迎えた恩師をゲストに迎えて、でふ氏一行が再現したのは、南宋宮廷の名高い祝宴「寿宴」でした。

 

昼食7コース+夕食7コース。コースごとに高級酒と前菜に加えて3品の料理、さらに歌舞や演劇や雑技までついてくる。これはもう1日に14回の豪華食事会ですね。「仙人漂海」とか「二龍入海」などと名付けられた料理はそれぞれ、高価な食材を用いた贅を尽くしたものばかり。一例をあげると「南極星輝」なる料理は「巨大な魚の蒸煮の中に蟹味噌を入れた魚団子を乗せた料理」で「真珠貝が開いて真珠が零れ落ちたさま」を「南極星の輝き」に見立てたもの。彼らが制覇した「山八珍」食材とは、熊の掌、駱駝の瘤、鹿のペニス、飛竜鳥、猴頭、四不像の鼻、穿山甲、山猫の子供だそうです。読むだけで食欲が失われてしまう・・。食に対する執念とは凄まじいものです。

 

他に、売国奴と悪評高い南宋政治家の嘆きを夢に見た「秦檜」と、一生の間に食べるアヒルの夢が運命を左右した「点心厨師」が収められています。

 

2023/4