りぼんの読書ノート

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ちよぼ(諸田玲子)

加賀百万石の礎を築いたのが前田利家と正妻まつであることは、大河ドラマ化されたこともあって、多くの人に知られています。しかし第3代藩主となった利常の生母である側室「千代保(ちよぼ)」の功績も大きいようです。朝倉氏家臣であった上木氏の家に生まれ、まつの侍女として前田家に入った後に、朝鮮出兵時に名護屋の陣中で利家の世話を務めた際に美貌を見初められたとのこと。この時ちよぼは20代前半。利家とは31歳、まつとは23歳の年齢差があります。本書は、側室から藩主の生母となって、晩年は江戸で人質として暮らし、敬虔な日蓮宗信徒でもあった彼女の生涯の断章を描いた作品です。

 

冒頭の「ちよぼ」は57歳になったて再会した本阿弥光悦と、利家の側室となる前の出会いを回想する物語。2人は同じ日蓮宗の信徒として交友関係にあったのですね。次の「鬼退治」はまだ8歳の時に、北陸を治める府中3人衆のひとりとして鬼と恐れられていた若き利家と山中で出会ったエピソード。上木家で預かっており、弟同様に可愛がっていた浅井家遺児の新十郎との別れが描かれます。

 

3作目の「お猿どの」は、後に利常となる息子・猿千代を晩年の利家と強引に対面させたエピソード。この公式の体面がなかったら、庶子であった利常が第3代藩主となることはなかったのかもしれません。4作目の「女いくさ」では大坂の陣を背景として描かれる、不仲と噂されていた利家の正室まつとの関係が、5作目「湖畔にて」では千代保が姉のように慕っていた側室・在から託された息子・知好の悲劇が、最終の第6作「妙成寺」では利家の側室となる前の秘められた恋が描かれます。金沢周辺には、寿福院千代保の発願による日蓮宗の寺院が多いようです。昨年金沢に旅行する前に知っていたら訪れたのに・・。

 

2023/4