りぼんの読書ノート

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折り紙大名(矢的竜)

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江戸時代前期の綱吉時代に上総国佐貫藩の藩主であった松平重治は、身分違いの者に書状を出したことを咎められて改易となり、会津藩に預けられた直後に病死したそうです。著者の創作意欲を掻き立てた謎めいた処罰理由と、高家の次男として生まれた重治が礼儀作法に必要な「折形」に詳しかったことを組み合わせて書かれた作品です。

 

もっとも「身分違いの者」として登場する町娘きぬが、武家の礼儀作法に詳しいわけはありません。彼女の特技は折り紙とされますが、彼女の技法はどのようにして、誰も到達できない境地にまで達することができたのでしょう。そしてきぬと重治の出会いや、2人の関係はどのようなものだったのでしょう。そこには不治の病かかった4代将軍・家綱と重治の深い結びつきも関わっていたのです。

 

まるで生きているような蟹や、独創的な七福神や、質感まで再現した伊勢海老から、ついには将軍を慰めるための献上品となった竜神まで折ってしまうというのは、まさに神技です。しかし冷静に考えれば藩を犠牲にするほどの価値などあるわけないのですが、このストーリーで一気に読ませてしまうというのは著者の力量ですね。この著者には江戸時代の駱駝興行を題材にした『シーボルトの駱駝』という快作もあります。

 

2022/1