りぼんの読書ノート

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御松茸騒動(朝井まかて)

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尾張藩江戸屋敷に勤務する新進気鋭の若手藩士・小四郎が、上司に煙たがられて国許の御松茸同心に左遷。「3年で戻す」との口約束で向かった役目は、毎年幕府に献上する特産品の松茸の本数を揃えること。しかし、年ごとに産出が減っている松茸の収穫を元に戻すことは至難の業だったのです。

事務系エリートだった小四郎にとって、フィールド系の仕事は大の苦手。山林を管理する山守や山廻同心には邪険にされ、山村に暮らす村人には馬鹿にされ、大嫌いな虫や蛇には驚かされ、それでも松茸が生える原理を極めようと必死になるほど、彼の空回りは続きます。そもそも松茸の栽培など、現代においても不可能事なのですからね。

大真面目な小四郎の奮闘ぶりは、まるでバスター・キートン無声映画のよう。真剣な大失敗は読者に笑いをもたらすのですが、それを繰り返し続けると、別の感情が湧いてくるのです。そして著者は、そんな読者の感情に先回りしたかのような大団円を準備しています。紀州出身の八代将軍・徳川吉宗公に反抗して、蟄居を命じられたまま晩年を迎えていた傾奇大名・徳川宗春公が、一役買うのですが・・。

本書の展開には、いい意味で裏切られました。なかなかの超絶技巧です。

2016/7