りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜が来ると(フィオナ・マクファーレン)

イメージ 1

シドニー郊外の海辺で余生を過ごしていた老女ルースは、獰猛なトラが家の中を徘徊する気配を感じて目を覚まします。それは何かの予感なのでしょうか。ニュージーランドで暮らす息子に電話をしても、もちろんまともには取り合ってもらえません。

しかし、自治体から派遣されてきたというフィジー人ヘルパーのフリーダは、この話を真面目に聞いてくれました。腰痛にも悩まされていたルースは、フリーダに家事全般を任せていくようになるだけでなく、精神的にも依存度を深めていくのですが・・。

前半は、対照的な2人の女性の穏やかな交流が描かれます。フィジーで布教する宣教師の娘として育った少女時代。診療所に赴任してきた若き医師リチャードへの初恋と失恋。安定した結婚生活。ルースが過去の思い出をフリーダに語る様子などは、ほのぼのとした雰囲気に満ちているのです。ただひとつ、ときおり現れるトラの気配を除いては。

しかしルースの記憶が次第に曖昧になってくると、物語はサスペンスへと転調。ルースがフリーダに抱き始めた不審感は、彼女の妄想にすぎないのか。やはりフリーダは善意のヘルパーなのか。もはや「信用ならざる語り手」と化したルースの視点からフリーダを見ている読者もまた、欺かれているのでしょうか。やがて悲劇が起こります。

著者は、祖母が認知症になった経験をもとにして、本書を書いたとのこと。老いの問題が深刻なのは、世界中で共通の問題のようです。それにしても、息子のアクションが遅すぎる!

2016/7