りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アイミタガイ(中條てい)

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何気ない日常を描いた5つの物語。すれ違っているだけのように見える人たちが、どこかで繋がっているというだけのことが、どうして感動を生み出すのでしょう。「善意のリンク」を実感することが少なくなっているせいかもしれません。映画「ペイ・フォワード」を思い出しました。

「定刻の王」
毎日同じ電車で出会う初老の男性が寝過ごしていたとき、さりげなく起こしてあげた青年の照れくささが実感できる作品です。でも、これだけならどうってこともない作品です。

「幸福の実」
面倒を見過ぎるヘルパー女性が、ピアノ経験があるという老女に演奏の依頼をしたことは、余計なおせっかいだったのでしょうか。戦時中に教師をしていた老女は、教え子を戦地に送り出す際にピアノを弾いたことを悔いて、68年もの間ピアノを封印していたのです。

「夏の終わり」
写真家の娘を亡くした両親のもとに届いた児童養護施設からの手紙は、それまで知らなかった娘の姿を伝えてくれるものでした。その父親は第一話で起こされた男性であり、その日に寝過ごさなかったことも大切な思い出になっていたのです。

「ハートブレイク・ライダー」
中学受験に落ちた男の子に、「せっかく落ちたんだから、人生の転び方を覚えなさい」と教えるおせっかいおばちゃんが、いい味を出しています。ヘルパーさんのお母さんですね。

「蔓草」
母を捨てた父親へのわだかまりから結婚を決めることができない梓ですが、幼いころに育った父方の祖母の家は「実家」です。祖母の策略で義理の弟と出会った梓の、かたくなな心はほどけるのでしょうか。梓は第一話の青年の恋人なのですが・・。他にもさまざまなリンクが明らかにされますが、押しつけがましくないところにも好感が持てます。

著者の友人という方のブログに「読んでいて何度か泣けてきて、途中からはみんなが勝手に動き出していきました。同級生の名前が登場してビックリ」とあるのを見つけました。こんな素敵な小説を書ける方が友人にいるということも、素晴らしいですね。

2017/4