マンドリンサークルに所属している大学4年生の小笠原は、未来になんて興味がありません。就職活動よりも趣味のマンドリンに命をかけているくらいなのですが、うまく人間関係がとれないためにサークル内でも重要なポジションを任せてもらえません。指揮者を目指している男性のことを好きなのですが、都合のいい女扱いを超えることはないようです。
しかし彼女はそんなことはわかっているのです。終わりだしてからも延々と演奏が続く曲であっても、エンディングに入れば聴衆も感じ取れるもの。いつまでも続くかのような学生生活も、別れ方が難しい恋愛関係も、エンディングを迎えていることは明白なのですから。
だから彼女には、やがて来る本当の終わりが見えているのでしょう。「去っていく足音は、いつしか聞こえなくなる」ように、失恋の痛みはいつまでも続くものではありません。今は彼女を好きな人も、彼女を雇いたいと思っている人もおらず、「真剣にひとりっきり」という自覚に沈む小笠原の強さは、作家を目指した著者の強さと同質であるようです。
2022/1