内戦時代のカンボジアを生き抜いた異才の少年少女の物語を描いた傑作SF『ゲームの王国』の著者による、日本SF大賞受賞後第1作は短編集でした。奇想、歴史、SF、ファンタジーなどのジャンル分けに馴染まない多彩さを見せてくれます。最初の4編のテーマは父と子の関係ですね。
「魔術師」
零落した稀代のマジシャンが最後に挑んだのはタイムトラベルでした。19年前の自分に将来の失敗を告げる映像にはトリックが仕込まれているのでしょうか。22年後、それっきり姿を消した父親の跡を継いでいた姉は、二度と戻れない過去へと出発しようとするのですが・・。
「ひとすじの光」
亡き父が遺した駄馬は、名馬と言われながら人々の期待を裏切ったスペシャルウィークの血統を継いでいるのでしょうか。競走馬の血筋と自分自身の血筋に共通点を見出した主人公は、父親の思いに気付くのです。
「時の扉」
無限の勝利を望む東フランクの王を永遠に呪縛した者は、不吉な双子を棄てたユダヤ人の金貸しだったのでしょうか。そして棄てられた双子の片割れが、後の総統であったのでしょうか。
「ムジカ・ムンダーナ」
音楽を通貨とするフィリピンの孤島には、宇宙と調和した究極の音楽「ダイガ」が存在しているのでしょうか。父親からダイガと名付けられた息子は、父の思いを知るために孤島へと向かいます。
「最後の不良」
ファッションやカルチャーの流行が絶え果てた未来で開かれた、もういちど流行を取り戻そうという集会の狙いは皮肉なものでした。流行の消滅と、ファッションやカルチャーの消滅とは同義ではないのです。
「嘘と正典」
過去にメッセージを送る手法が発明された世界。共産主義の消滅を企むCIA工作員が企んだのは、マルクスと出会う前のエンゲルスが容疑者となった裁判の証人に、彼に不利な偽証をするように連絡するのですが・・。この世界における「正典」をは何を意味していたのでしょう。
2020/11