りぼんの読書ノート

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トリガー(真山仁)

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『ハゲタカ』以来、社会問題とエンターテインメントを両立させる小説を書き続けている著者の新作のテーマは、在日在韓米軍の民営化問題でした。戦争や紛争で自国民の軍人に犠牲が出ることを回避するために、アメリカでは民間軍事会社への軍務外注委託が進行しているようですが、そんなレベルにまで事は進んでいるのでしょうか。しかしこれは日韓両国にとってはたまったものではありません。傭兵の素行の問題だけでなく、民間軍事会社は戦争が起こるほど利益を上げることができるのですから。

 

陰謀が明るみに出たきっかけは、東京五輪の最中に韓国の馬術競技代表が狙撃されたことでした。彼女は韓国大統領の姪であるのみならず、本職はソウル検察庁の検事であり、アメリカの民間軍事会社による日韓両国要人への贈賄を日本の検事とともに調査していたのです。国民的ヒロインを襲った悲劇に対して、韓国の捜査機関は犯人逮捕の厳命を受けますが、日本で起こった事件への捜査権はありません。日本首相と韓国大統領の関係も最悪の状態にある中で、両国の情報機関や操作陣捜査陣は事件の真相にたどり着けるのでしょうか。しかもこの事件に関係して、在日米軍女性将校と北朝鮮潜伏工作員の変死事件が相次いで発生しており、北朝鮮工作員も密かに動き出していたのです。

 

多くの登場人物が入り乱れるので少々ゴツゴツした展開なのですが、一番のキーパーソンが冴木治郎であることを押さえておけば良いのでしょう。元内閣情報調査室長の合気道師範であり、旧友の内閣官房長官からこの事件を解決するように依頼されて内閣参与として臨時に復職するのです。韓国や北朝鮮の情報機関との人脈も利用して事件を鮮やかに解決し、表面的な政治的な決着のみならず、水面下での処罰までしてししまうのですから。こんなスーパーヒーローが実在するなら、日本の情報機関も頼りになるのですが・・。

 

世界をリードしてきたアメリカにはスケールの大きな巨悪が生まれるのでしょうか。著者は同時にアメリカを自浄能力の高い国として信頼も寄せているようですが、アジア諸国としては協力し合って自衛能力を高めていかないことには、超大国が生み出す巨悪には対応しきれないのかもしれません。

 

2020/11