りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

流浪の月(凪良ゆう)

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「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ」という相手と、深い絆で結ばれてしまったという感覚を描き出した、2020年の本屋大賞受賞作です。

 

主人公・更紗が自由人で愛情深い両親と暮らした楽しい少女時代は、9歳の時に終わってしまいました。父親の病死と母親の失踪で両親を失った更紗は、伯母の家に引き取られて窮屈で居心地の悪い生活を余儀なくされてしまったのです。そんな時に公園で出会った19歳の青年・文の家についていったことが重大な結果を引き起こします。更紗のわがままをきいてくれただけの文は幼女誘拐犯として逮捕され、更紗には「傷物にされたかわいそうな女の子」というデジタルタトゥーが押されてしまいます。

 

そして15年後、ずっと周囲に理解されないまま孤独な女性に育っていた更紗は、文と偶然に再会。普通の34歳男性と24歳女性であれば、何の問題もなく交際できる年齢差ですが、この2人の場合は違います。ネットで執拗に「その後」を追及されて正体を暴かれてしまい、世間の批判にさらされる中で、2人はどのような生き方を選ぶのでしょう。

 

事実と真実。客観と主観。常識と非常識。幸福と不幸。私たちを包む世界はいつだって、私たちに常識的な行き方を求めて来ます。かつてはLGBTQもそうであったように、常識的な世界を居心地悪く感じてしまう人にとって、出口は必要不可欠なものなのです。そこそこ常識人的な生き方をしていると自分では思っている私ですが、自分と異なる感覚を持つ人たちと共存することができる世界ではあって欲しいと思うのです。

 

2020/11