りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

更科日記(江國香織訳)日本文学全集3

イメージ 1

池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻は、『源氏物語』前後の小説にあてられているのですが、これが一番新鮮でした。とにかく、江國香織さんの新訳が素晴らしいのです。

「日記」というタイトルがついているものの、これは「女性の半生記」ですね。序盤は、9歳から13歳までの少女時代を東国で暮らした後に、父の転勤に伴って上京した旅を綴った紀行文。とにかく、見聞きするもの全てが目新しいのです。

雅やかな物語世界に憧れて王子様の登場を待ち望むハイティーン時代の日記からは、みずみずしい少女の感性があふれ出てくるようです。『源氏物語全巻』をプレゼントされて狂喜乱舞するあたりは完全に文化系オタ女ですし、中流貴族の娘で正妻になれなかった夕顔や浮船に憧れるあたりは、かなりのマイナー推し。

中盤以降は、幼い夢が現実世界によって置き換えられていく様子が、リアルに描かれます。苦労の多い宮仕え、失望の結婚生活、亡くなっていく姉、友人、両親。次第に神仏参りに熱中していくようになり、いろいろあっても頼りにしていた夫を失ってからの終盤では、老境の心細さと来世への頼みが綴られます。

江國さんは、本書のことを「書物によって愛への憧れをかきたてられた女性の一代記」であり、著者のことを「シャーロット・ブロンテの大先輩」と表現しています。まさに、その通り!

2016/6