りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

土佐日記(堀江敏幸訳)日本文学全集3

イメージ 1

「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとしてするなり」とはじまる「仮名文字の日記」が、紀貫之の手によることは、はじめから明かされています。つまり「ネタ」として「ネカマ」を演じていることを「ネタバレ」されている状態なのです。

この新訳を担った堀江敏幸さんは、紀貫之による「架空の序文」と「あとがき」をつけてしまいました。仮名文字の「土佐日記」は、土佐で娘を亡くした悲しみを抱えながら帰京にはやる気持ちを綴った内容なのですが、これによって全く異なる意味が付け加えられるころになりました。

つまり、紀貫之がこれを著した背景には「漢文の興隆の影で、和歌の将来を憂う」心情や、「歌人としての誇り」や、「復権への期待と不安」があるというのです。出世から外れて都落ちした者が、世間にアピールするために、奇をてらったキャンペーンということでしょうか。

堀江さんはこれを、フィクションとメタフィクションの間の「ゆらぎ」と呼び、まるで現代文学のような主題を含んでいるとまで評価するのです。そう言われると、そう思えてきますね。ここまでくると、「新しい創作」といってもいいかもしれません。紀貫之の「模索」について、堀江さんが「模索」を試みるという、重層的な構造になっているのです。

2016/6