りぼんの読書ノート

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マジカルグランマ(柚木麻子)

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「マジカルニグロ」という言葉があります。「風と共に去りぬ」のマミーのように、不断は存在感を消していながら白人の主人公を助けるために献身的に尽くす、白人社会が作り上げた都合のいい黒人のこと。本書の主人公である柏葉正子もそんな「マジカルグランマ」でした。戦後の日本映画の全盛期に女優になったものの若手の映画監督と結婚してすぐに引退し、75歳を目前に携帯電話のCMで再デビューを果たして「日本のおばあちゃんの顔」となったのです。

 

しかしそんな日は長く続きませんでした。決して「マジカルグランマ」であることに嫌気がさした訳ではなく、「理想のおばあちゃん」からは程遠い存在であることが世間にバレて一気に国民から背を向けられてしまったという次第。屋敷の離れに住んでいる夫とは何年も口すら利いていない仮面夫婦だったのですが、夫の突然死を喜ぶ素振りを見せてしまったことが決定的でした。さらに夫には巨額の借金があることも判明。様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくのですが・・。

 

著者は当初、正子が自分で事務所を作って芸能界を席捲していく話を考えていたとのことですが、お化け屋敷のほうが斬新でいいですね。憎まれて死んだ老婆の霊を演じることで正子は、皆から好かれる愛らしい老女という「マジカルグランマ」から脱することができたのですから。自分も気づかないうちに受け入れてしまった差別的な感覚の呪縛から逃れることは難しいのです。まして皆から望まれている役割から逸脱することも。

 

若い頃の正子に映画のオーデションを受けるように勧めてくれた元親友の陽子さんが、世界初の認知症俳優になるというエピソードも含めて、楽しいながら考えさせられる点も多い作品でした。

 

 

2020/11