りぼんの読書ノート

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夜の国のクーパー(伊坂幸太郎)

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大江健三郎さんの同時代ゲームを意識して書かれた小説だとのこと。確かに、「村人の半数を戸籍外とするカラクリ」や「村と大日本帝国との戦争」や「不死の巨人である壊す人」など、同書の根幹をなす箇所との共通点を感じるような作品です。

妻の浮気に逆上し、小舟で海に出て時化にあった「私」が目を覚ますと、人語を話すネコに助力を求められます。鉄国との戦争に敗れて占領された町からやってきたというネコは、皆から尊敬され信頼されていた町の指導者を射殺した占領軍に捕えられた人々を助けて欲しいというのです。しかし、平凡な男性である「私」にそんなことができるのでしょうか。

しかし、そのネコも知らないことがありました。その町は、定期的に現れるクーパーなる怪物を倒すために兵士を派遣していたのですが、その真相を知っていたのは、占領軍の隊長だけだったのです。任務を果たしたとされる兵士たちは、たった1人の例外を除いて町には戻って来なかったのですが、その背景には巨大な欺瞞があったというのです。しかしなぜ、隊長が真相を知っているのでしょうか。

「平和」の真相と「指導者」の正体が、寓話的なネコとネズミのエピソードと重なりながら、明かされていきます。「伏線」も「種明かし」も丁寧でわかりやすいのですが、「私」の意外な活躍には唐突さを感じました。途中で拾ったカメラが真実を写す・・とかの展開を想定していましたので。もっとも、「クーパー」を全く架空の存在としないためには、この展開も「必然」だったのでしょう。

2015/2