りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッド・ベニオフ)

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現代アメリカで作家をめざしているディヴィッドは、「ナイフの使い手だった私の祖父は18歳になるまえにドイツ兵をふたり殺している」との噂を確かめるために、ユダヤ系ロシア人であった祖父のレフの戦時体験を取材します。祖父が祖母に内緒で語ってくれた話とは・・。

1942年、ナチス包囲下のレニングラードで窮乏と飢餓の極限状態にあった17歳のレフは、夜間外出禁止令違反で逮捕されます。秘密警察の大佐が出した釈放の条件とは、娘の結婚式のウェディングケーキの材料に使う卵1ダースを5日以内に持ってくること。やはり逮捕されていた脱走兵のコーリャとともに、卵を求めての一大冒険が始まります。

ファンタジーめいた設定ながら、戦争の悲惨さがリアルに描かれていきます。カニバリズムに陥るほどの飢餓地獄。爆撃で一夜にして消え失せてしまったアパート。地雷を抱いて敵の戦車に飛び込むよう訓練された軍用犬の末路。パルチザンに攻撃されるたびにロシアの村を滅ぼしていくナチスの復讐・・。

その暗さを救うのが、同行するコーリャがもたらしてくれる笑いとペーソスです。詩人の息子であるレフと作家志望のコーリャですけど、17歳と20歳の青年ですから、会話の内容は文学談義はほんの少々で、大半が下ネタなんですね(笑)。

卵を手に入れるにはドイツ軍の占領地域に入るしかないと覚悟を決めて、前線を越えた2人が出会ったのはパルチザンの兵士たち。少女狙撃兵に恋心を抱いたのもつかの間、ナチスに逮捕されて絶体絶命の窮地に陥ってしまうのですが・・。

とってもおもしろい小説でした。優れた小説でもありました。悲惨な戦争実話をファンタジー的に語っていく中から浮かび上がってくるものは、激しい反戦思想であり、リアルなだけの物語よりも胸に迫ってくるように思えます。料理をいっさいしないという祖母の秘密も、ラストになって効いていますね。

2010/12