りぼんの読書ノート

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ビリー・リンの永遠の一日(ベン・ファウンテン)

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2004年11月25日、感謝祭の日にテキサススタジアムで行われたアメフトゲームでは、派手なハーフタイムショーが繰り広げられたそうです。通常のチアダンスに加えて、ビヨンセを含むディスティニーズ・チャイルドが招かれ、大学や軍のマーチングバンドが交信。その中に、まだ継続中であったイラク戦争から呼び戻されたばかりのように見えた兵士の一団もいたとのこと。

これを見た著者は、シュールでクレイジーに感じたと言います。戦場から帰還してアメリカ的な演出のショーに出演した兵士たちが再び戦場に戻るとしたら、彼らはどうやって正気を保っていられるのだろうと。本書は架空の兵士ビリーを主人公にして、彼がこの狂騒の一日をどう感じたのかを綴った作品です。

19際のビリーにとって、英雄的行為とされたイラクでの戦闘の記憶はまだ生々しいものでした。その一方で、自分たちが戦意高揚のためのマスコットとしての役割を演じさせられることもわかっています。さらに周囲の人々の思惑も感じ取れてしまいます。

多くの聴衆たちが期待するのは誠実な物語ではなく英雄的なドラマであり、アメフトチームのオーナーはビリーらの戦闘行為をハリウッドに売り込もうと画策し、平和主義者の姉は軍からの逃亡を勧め、ビリーをめぐる状況は壮大な悲喜劇のようになっていきます。唯一救いだったのは、新人のチアガールがビリーに想いを寄せてくれたこと。そして始まったハーフタイムのショーは、ビリーにとっては戦争と戦争の間のハーフタイムにしか思えないのです。

難解な作品ではありません。しかし、普通の人々のTVショー的なドラマへの期待が、戦争の原動力ともなっていることを感じさせてくれます。ブッシュ時代の物語ですが、トランプの勝利を招いたものが何なのかを、垣間見せてくれる作品でもありました。アン・リー監督によって、映画化もされています。

2017/6