りぼんの読書ノート

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半沢直樹 アルルカンと道化師(池井戸潤)

半沢直樹シリーズの第5作ですが、主人公が大阪西支店の融資課長に就任直後の物語なので、第1作の『オレたちバブル入行組』より前のこと。

 

半沢が融資を担当している美術系出版舎・仙波工藝社は業績低迷中であり、新規融資を受けなければ社の存続が危ぶまれる状況に陥っていました。しかしその仙波工藝社を買収したいという案件が持ち込まれます。買い手は新進のインターネット関連企業であるジャッカル。創業5年で上場を果たした田沼社長は絵画コレクターとしても著名であり、とくに近年命を絶った現代画家・仁科譲の圧倒的なコレクションを誇っていました。その仁科の代名詞とも言われる得意テーマが「アルルカンとピエロ」。

 

これだけなら奇特な社長趣味によるM&A案件なのですが、奇妙なのは本社業務統括部長の宝田と、彼の指示を受けた大坂営業本部が、やけに肩入れしていること。仙波社長に買収を拒否されてもあきらめず、新規融資に難癖をつけて買収を受けざるをえないように仕向けてくるのです。しかも巨額のオプションを払うというジャッカルサイドにも裏がありそうです。顧客の意向を無視した強引な買収工作を不審に感じて裏事情を探り始めた半沢は、画家が青年時代に抱えた秘密に気付くのでした。

 

TVドラマが大ヒットしたので、どうしても俳優の映像やキャラが浮かんできてしまいますね。著者もそこは意識しているのでしょう。ドラマで作られた「倍返し」のセリフすら、本書の中で半沢に語らせているのですから。銀行マンとしての矜持や良心を保つ半沢らの熱い闘いはどの作品でも共通ですが、さまざまなジャンルを舞台にできるのが銀行小説のメリットですね。それにしてもアートの世界とは驚きました。

 

2023/8