りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

Boy's Surface(円城塔)

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すでに複雑系作家(?)としての名声を轟かせている著者の、Self-Reference ENGINEに続いて2008年に刊行された第2作品集です。テーマは「恋愛」のようですが、どうしてこんなにわけのわからないことになってしまうのでしょう。

「Boy's Surface
数学者アルフレッド・レフラーは、24歳の時に国際会議のために立ち寄ったパリで、噴水の縁石に腰掛けた若い女性を目撃して恋に落ちた際にレフラー球を幻視したそうです。レフラー球とは、視認不能なレフラー基盤図形を近く可能な文字情報に変換するツールだそうですが、この文章を書いているのがレフラ-球だというのですから、ややこしい。しかも、レフラー球を経た映像が錯覚であると識別する方法は存在しないそうですから、もはや壮大なほら話の領域です。

Goldberg Invariant
広大な空間を探索するキャサリンたちが遭遇したものは、国生みに使われた「天沼矛」なのか、それとも何者かの侵略の痕跡なのか。ゴルトベルクとは、戦いの初期に失踪した霧島梧桐(ゴドー)に代わって指揮を執る者というのですが、円周率も変動する世界では、もはや何と何が戦っているのか想像を絶しています。すべてが、シミュレーションされた宇宙での出来事のようにも思えます。

Your Heads Only
28歳のポスドク男性が18歳の女子大生と出会ったという恋愛ストーリーを描くのに、どうして土斑猫の生態や、ボトルメールの大群や、万能チューリングマシンが必要なのでしょう。この出会いや恋愛は、書き手の脳内にしか存在していないものなのかもしれません。もしくは読み手の脳内なのかも。

Gernsback Intersection
地球の私語を予見した17歳の少女が与えられた戦艦は、花婿一個連隊が花嫁軍に対して決死の突撃をする未来を予兆しているのでしょうか。生命の誕生とは、奇跡の僥倖ともいえる確率で特異点突破を果たした末のできごとなのでしょうか。タイトルからしウィリアム・ギブスンへのオマージュなのですから、これは実現しなかった未来を幻視した物語と思えばよいのでしょう。ヒューゴー・ガーンズバックへのオマージュであったオリジナル作品に漂っていた抒情性は、どこにいってしまったのかという気分になりますが。

2017/1