りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

私はゼブラ(アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ)

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イランの地で「独学・反権力・無神論」の3つの柱を掲げ、「文学以外の何ものをも愛してはならない」を家訓とするホッセイニ一族の末裔として生まれたビビの人生は、スタートポイントから歪んでしまいました。ビビが5歳の時に、イラン革命とイラン・イラク戦争を逃れるために、一家は国境を超えたのです。途中で母が事故死したこともあり、最後にアメリカにたどり着いた父は一層文学に沈潜。一人娘のビビを文学で武装させることに全てを費やしました。そんな父が20年後に病死したことを契機に、ビビは一大決心をするのです。

 

それは亡命生活で分裂した自己を取り戻すために、亡命の旅路を逆からたどり直すこと。父親の葬儀の際に幻視した光と闇の縞模様に啓示を得て、「虚無の女騎士ゼブラ」と名乗り始めたビビの武器は、もちろん文学です。彼女の鎧や槍は、過去の作家たちの偉大な言葉なのです。

 

はじめに向かったバルセロナで、アメリカでの唯一の師の地から紹介されて出会ったのは、ルネサンス期のラヴェンナでダンテを埋葬した一族の末裔である青年、ルード・ベンボ。相手にとって不足はない知のエリートのはずだったのですが、この青年はかなりのへなちょこ。ゼブラがドン・キホーテなら、ルードは彼女に仕えるサンチョ・パンサか、彼女に乗りこなされるロシナンテというところ。それでも惹かれ合った2人は、仲間を集めて「虚無の大巡礼」へと出発するのですが・・。

 

一見すると堅苦しい文章が続く本書は読みにくそうですが、著者は「読者には心の底から笑ってもらいたい」と語っています。そしてついでに「亡命者であるとはどういうことなのかを考えて欲しい」と言うのです。まず笑いという点が重要ですね。これを逆にして亡命者の悲劇を先に読み取ろうとすると、大げさで破天荒な物語が意味するものがわからなくなってしまいそうです。

 

2021/2