藤子・F・不二雄先生の「ドラえもん」へのオマージュという形をとって、多感な女子高生の揺れ動く心情を描いた、ひと夏の物語。
カメラマンの父親は5年前に失踪、今また母親を病で失いそうになっている高校生の理帆子が主人公。聡明ながら自尊心も高い彼女が、自分を表現する言葉が「少し・不在」。どのグループともつきあえる「どこでもドア」を持っているようで、どこにいても自分の居場所と思えないでいるのです。年上の元カレの若尾は「先取り約束器」を持っているかのように将来の夢を先取りして生きているクズ男なのに、完全に離れられないのは彼が「かわいそメダル」をかけているから。
そんな彼女に、写真のモデルになって欲しいと依頼したのが「少し・フラット」な上級生の別所。帆子の悩みを理解して、先入観を持たずに的確な判断を下してくれる男性なのです。しかし互いに恋愛感情に至らなかったのには、「ドラえもん」級の理由があったのです。やがて別所が忠告していた通り、元カレの若尾は事件を起こすのですが・・。
この本を読むと、氷の下でも生き延びられる「テキオー灯」が欲しくなりますね。でもそれは強い心のこと。誰でも入手可能なものなのかもしれません。理帆子が人物を「少し・〇〇」と表現するのは、藤子・F・不二雄先生が自身のSF作品を「少し・ふしぎ」な物語と定義していたからです。ミステリ要素を加味しながら青春の痛みを描いた本書からは、原作への尊敬の念もしっかり伝わってきます。
2019/8