りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

灯台守の話(ジャネット・ウィンターソン)

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ねにもつタイプ岸本佐知子さんの翻訳です。

スコットランド最果ての港町に生まれ育った少女シルバーは、母が事故死した後、盲目で老いたケープ・ラスの灯台守ピューに引き取られ、灯台で暮らし始めます。灯台守の重要な仕事は、光を絶やさないことだけでなく、物語を語ること。くたびれ果てた船乗りが求めるのは、揺るがない光と物語なのですから。

ピューは、シルバーにケープ・ラスの灯台を作った男の息子バベルの物語を語ります。裕福で希望に満ちていたのに、愛した女性のことを信じられずに意に染まない結婚をし、しかもかつて愛した女性とロンドンで邂逅したのをきっかけに、二重生活をおくった男。バベルに対しては、運命は過酷でした。

でも、人生の物語は1人で完結するものではないのです。「ハッピーエンド」のお話をねだるシルバーに、「物語にエンドなどない」と答える老人の言葉のように、ある人の人生は次の世代に引き継がれ、魅力ある物語は何度も繰り返して語られるものなのです。「はじまり」だって同じこと・・。

やがてシルバーは、バベルの日記を携えて灯台の外に出ます。彼女が飛び込んだのは、アウトサイダーを拒み、他者を排除する世界。このあたり、孤児として生まれ、同性愛者として非難を浴び、失言で文壇から排除された著者の人生と重なるのかもしれません。

時としてバベルの人生と交錯するシルバーの人生の物語は、どう続くのでしょう。前半は「お話して、ピュー」と始まっていた各章が、後半では「お話して、シルバー」に変わります。シルバーは、物語を聞く側から、語る側へと成長するのです。

あとがきで紹介されている「自分自身をフィクションとして語り、読むことができれば、人は自分を押しつぶしにかかるものを変えられる」との、著者の言葉が印象的でした。この人の本は、他に3冊翻訳されていて、そのうち2冊が岸本さんの翻訳とのこと。もっと読んでみたい作家です。

2008/7