りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ネクスト(マイケル・クライトン)

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ジュラシック・パーク』では、血液から恐竜の遺伝子を取り出してみせたクライトンですが、それから17年たった現在では、遺伝子に関する問題は現実のものとなってきています。

本書のメインストーリーは、癌に耐性がある男性の遺伝子特許を、彼が治療を受けた大学が彼に無断で取得して、民間企業に売り渡したケースの顛末。ある謀略で、彼の遺伝子を失ってしまった企業が、細胞を再取得するために、彼の息子を一時的に誘拐しようとするのです。こんな行為が、どうして犯罪にならないのか。個人を形成している遺伝子であろうと、遺伝子特許を取得している会社に所有権があるという驚くべき論理が、裁判で堂々と展開されるのです。

これと並行して、違法あるいは違法スレスレの遺伝子実験が指摘されます。その結果生まれてしまった、知能を有するチンパンジーやオウムの争奪戦は楽しいサイドストーリーですが、大半は現実的でシリアスな問題。

さらには、遺伝子研究が「金のなる木」であるものとして、企業や投資家を煽って研究資金を出させるテクニックに優れた教授やアドバイザーの存在や、遺伝子診断によって裁判の帰趨を制しようという動きや、遺伝子によって個人の人間性が全て決定されてしまうなんて暴論まで登場するのですから。

話が広がりすぎてしまった結果、小説としては纏まりが良くないのですが、後書きにあるように、彼が本書を書いた理由ははっきりしています。
1.遺伝子特許の取得をやめさせよ
2.ヒト細胞の利用についてのガイドラインを作成せよ
3.遺伝子診断のデータを公開せよ
4.研究の規制をやめよ
5.バイ・ドール法(大学が研究成果を営利団体に売ること)を廃止せよ

実際問題として、SARSが流行の兆しを見せたときに、SARS研究が盛り上がらなかった理由は、ある製薬会社が関連特許を押さえてしまい、研究成果が収益に繋がる見込みがなかったため・・という事実には恐ろしいものを感じます。

遺伝子診断をベースにした「個別化医療」すら、近い将来に現れようとしている中で、本書の問題提起には納得できるものがあります。ちょっと前に読んだ『恐怖の存在』では、クライトンさんの「環境問題認識」はズレてるような気がしたんですけどね。

2007/11