りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

年月日(閻連科)

『丁庄の夢』や『愉楽』など中国政府に批判的な作品のイメージが強い著者ですが、本書は中国奥地の山深い農村を舞台にした物語であり、主人公の「先じい」が戦う相手は太陽です。

 

千年に一度の大日照りに襲われ、農民たちは村を捨てて出て行ってしまいます。たったひとり村に残ったのは73歳の先じいだけ。彼は自分の畑にたった1本だけ目を出したトウモロコシを守り抜く決意をしたのです。一緒に残ったのは、雨乞いの儀式で太陽を見つめ続けさせられて両目がつぶれてしまった一匹の犬「メナシ」。村の畑に撒かれたまま芽を出さなかったトウモロコシの種と、ほとんど枯れそうな井戸が1人と1匹に残された全てでした。

 

わずかな食糧をめぐるネズミとの争奪戦。水を求めて赴いた谷間でのオオカミとのにらみ合い。老いさらばえた身体に残った最後の力を振り絞って、忠実な愛犬に語り掛けながら、たった1本のトウモロコシの苗を命がけで守る先じいの姿は、中国の貧農の原点なのでしょう。しかしついに全ての手段が尽きてしまった時、先じいは壮絶な覚悟を決めるのでした。

 

ラストでかすかな希望が暗示されてはいるものの、悲惨な物語です。それでも本書からは、黄土の大地と生命への強い愛情が感じられるのです。そういえば河南省の貧しい村で生まれた著者の父親も農民でした。

 

2023/1