りぼんの読書ノート

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魂手形 三島屋変調百物語七之続(宮部みゆき)

江戸神田の袋物屋・三島屋で行われている、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」を原則とする風変わりな百物語の第7作。はじめは三島屋の姪おちかが努めていた聞き手役は、前作から従兄の富次郎に代わっています。語られた話で心の闇を浄化していたおちかと比べて頼りなく思われた富次郎でしたが、物語を墨絵に描いて封じ込める技も板についてきたようです。

 

「火焔太鼓」

美丈夫の勤番武士が語る、あらゆる火災を制す神器とは、どのようなものなのでしょう。火傷を負った兄に代わって殿に仕えた弟の奇怪な体験は、美しい結末を迎えたかに思えましたが、暗い後日談もあったのです。深い悲しみに沈んだ富次郎は、この話を聞き捨てにすることができるのでしょうか。

 

「一途の念」

馴染みの団子売りの娘が打ち明けたのは、不幸な生涯をたどった亡き母親が起こした奇跡でした。病に倒れた愛する夫の薬代を稼ぐために身をひさいでいた妻が生んだ3人の息子は、なぜ夫に瓜二つだったのでしょう。そして母が亡くなった時に何が起こったのでしょう。彼女は一途な念で酷い真実を覆い隠し続けていたのです。

 

「魂手形」

鯔背な老人が少年時代に出逢った奇妙な客は、現世で迷う魂を望むところまで道案内する「魂番」でした。しかし生前のことを忘れていた魂が自身の死の真相を思い出したときに、怒りや怨みで怪物へと化身することを、どうやって止めるのでしょう。まさか少年があんな活躍をしてしまうとは!

 

嫁いだおちかの妊娠がラストで知らされますが、彼女にとっての宿敵のような役割も果たしていた謎の「商人」が再登場。現世のものではなく善悪を超越している「商人」は、「邪恋」の事件が終わっていないことを示唆しているようです。魂の問題が解決することはないのでしょう。

 

2023/1