「聞いて、聞き捨て。語って語り捨て」。神田の袋物屋「三島屋」を営む叔父夫婦のもとに身を寄せた娘おちかが怪異話を聞くようになったのは、自ら体験した哀しい事件からの癒しを求めてのことでした。宮部さんは「おちかが人の話を受け止められるほどに成長し熟練してきたので、今回はやりたい放題だった」と言っていますが、シリーズ第3巻はバラエティに富んだ物語です。
「魂取の池」人も羨む結婚を前にしてマリッジ・ブルーに沈む娘の悩みは、彼女が焼きもち焼きだから。娘の母が言い聞かせた祖母の物語は、好いた人の心を試してはいけないという教えでした。おちかは「絆」の意味を考えてしまいます。
「くりから御殿」山津波で家族も友人も失った少年が、生涯負い目に感じていたことは何だったのでしょうか。死にかけた男を、友人たちはなぜ「いっぺん帰らせよう」と思ったのでしょうか。男に寄り添って生涯をともにしてきた老妻の言葉が胸を打ちます。
「小雪舞う日の怪談語り」井筒屋で開かれた「百物語の会」で、おちかが聞いた怪異譚は、逆さ柱の怪、橋の上にたたずむもの、病を見抜く眼力、恨みを果たす影法師たち。帰路、両国橋を渡るおちかに声をかけたものの正体は、ほっこりさせてくれます。『あんじゅう』に登場した手習いの若先生・青野利一郎さんが端役で登場。
「まぐる笛」東北の山中に登場する怪物まぐるを退治する方法は、女性だけに伝えられてきました。怪物の正体は、人々の恨みが形になったものなのでしょうか。人はただ怪物に遭わなければ幸なのか。遭ったとしても凌げる力を持つほうが幸なのか。おちかは考え込んでしまいます。
「節気顔」この世とあの世をつなぐ道筋にいる「商人」が再び登場します。以前おちかの前に現れた時には邪悪な存在としか思えなかったのですが・・。おちかは「商人」と再会する定めのようなものを感じます。
シリーズ第3巻までで17話。宮部さんは99話を目指しているといいますから、まだまだ先が楽しみです。
2013/10