りぼんの読書ノート

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春秋山伏記(藤沢周平)

著者の故郷であり、多くの作品の舞台である海坂藩の舞台でもある鶴岡に旅行して「藤沢周平記念館」を訪問したこともあり、未読であった本書を手に取ってみました。本書ともかかわりの深い羽黒山にも行ってきましたので。

 

本書の舞台は、鶴岡市街の南方で庄内平野が月山山系と出会うあたりの小さな農村です。羽黒山で修業した山伏であり、村の神社の別当となった大鷲坊が主人公ですが、実際の役割は狂言回しなのでしょう。ここに描かれているのは、江戸時代後期の庄内に暮らした村びとたちであり、素朴で勤勉であり思いやりのある農民たちの姿です。

 

「験だめし」

崖下に落ちそうになった寡婦のおとしの娘を助けたのは、この村に任じられてきた大鷲坊でした。実は彼はおとしの幼馴染だったのですが、神社にはすでにもぐりの山伏である月心坊が住み着いていたのです。村役人は急に歩けなくなった娘の足を直すことを条件に、月心坊を追い出す約束をするのですが・・。

 

「狐の足あと」

村の百姓になる前は鶴岡城下で馬方をしていたという巨漢の男は、出稼ぎに出ることが多く、農作業は色っぽい女房に任せっきり。その女房に密通した男がいるという噂から始まった騒動を、大鷲坊はどうやって収めるのでしょう。

 

「火の家」

19年前に村で起こった災厄の犯人扱いされて家を焼かれ、両親を失った少年が成長して村に戻ってきました。彼の目的は村人への復讐だったのですが、大鷲坊は男をなだめることができるのでしょうか。器量の悪い後家とのエロティックなエピソードも挿入されています。

 

「安蔵の嫁」

狐憑きになった娘のお祓いを依頼された大鷲坊ですが、彼の祈祷は効力を発揮しません。しかし、力持ちなのに嫁の来手がない男の手を借りて、強盗を犯して鶴ケ丘から逃げて来た浪人を逮捕した時に、意外な効果が生まれました。

 

「人攫い」

祭の夜に、寡婦おとしの一人娘が攫われてしまいます。犯人は村に「箕つくり」に来ていた山窩のようで、大鷲坊は村の若い者たちを連れて出羽三山の奥地に乗り込んでいきます。どうやら山鷲坊はおとしを嫁にもらうことになりそうです。山伏は巫女を娶るという厄介な掟があるのですが、そこは何とかなるのでしょう。

 

2022/11