りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

黄色い夜(宮内悠介)

著者がジブチエチオピアなどの北東アフリカ諸国を旅している時に書いた短編がもとになった作品とのことです。舞台となっている架空のE家は、貧しい砂漠地帯の中に屹立するカジノ・タワー。そこは世界中の金持ちやギャンブラーが集まる魔窟であり、上階へ行くほど賭け金は上がっていくという、まるで『死亡遊戯』のような世界。しかも最上階のディーラーは国王であり、国家予算規模の賭け金で勝てばE国を手に入れることができるというのです。

 

そこに挑む龍一ことルイが組んだのは、考古学者だった父親が奪われた古代類人猿の化石を取り戻そうとするイタリア男のピアッサと、天才ハッカーで夫を海で喪ったイエメン人女性のアシュラフ。彼を迎え撃つのはギャンブルで信仰を失った説教師や、たったひとりの母語を持ち国家や民族や自分自身を憎悪する支配人イメール。そしてカジノタワーの全てをコントロールしている国王ゲブレ。

精神を病んだ恋人を救うという目的を持つルイも含めて、全ての登場人物は賭け事をせずにはいられない者たちです。「なんのためにギャンブルをするんだい」というルイの問いに対する、「そりゃ、神に近づくためだろうな」とのピアッサの答えが、本書のテーマを現わしているのでしょう。砂漠に突然現れる砂嵐の黄色い壁を意味する「黄色い夜」のタイトルは、いったん吞み込まれたら脱出もおぼつかない闇のことであったように思えます。

 

2023/6