りぼんの読書ノート

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あんじゅう 三島屋変調百物語事続(宮部みゆき)

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心に深い傷を負い、叔父夫婦の営む神田の三島屋で行儀見習い中のおちかが聞き採る「不思議」の物語。おそろしに続く「三島屋変調百物語シリーズ」の第2弾。今回は4組の語り手が登場します。

「逃げ水」
山奥に祀られたまま忘れられた旱神(ひでりがみ)のほこらの前を偶然通ってしまい、旱神に取り付かれた少年は、持て余し者になってしまいます。彼が傍に居るだけで水が干上がるようになってしまったのですから。でも少年は、少女の姿であらわれる旱神を嫌ってはいなかったのです。

「藪から千本」
縁起が悪いといわれる双子の孫娘を嫌い抜いて亡くなった祖母の呪いなのでしょうか。全ての面で双子を平等に扱うと決めた両親と叔母夫婦は、双子の片方が亡くなった後は人形を作って、生きている娘と同じ扱いをしていたのですが・・。

「暗獣」
長く空いていた紫陽花屋敷に引っ越してきた老夫婦は、屋敷内に現れる不思議な存在を「くろすけ」と呼んで心を通わせていたのですが・・。暗獣はなぜ生まれ、どのような宿命を持っていたのか。ほのぼのとした中に、静かな悲しみが漂うような物語でした。

「吼える仏」
内情の豊かさを人々に知られないように生きている孤立した山村で、禁忌を犯した男が村全体を巻き込む悲劇を起こします。人間が心に溜め込んだ恨みや妬みが生み出した集団ヒステリーと言い切ってしまうには怖すぎます。

連作短編と見せかけて、それまでの全ての物語をおちか自身の物語として収斂させた『おそろし』のような、高度な構成の作品のほうが好みですが、宮部さん、相変わらず上手いですね。全ページに南伸坊さんの挿絵がついているのも楽しいですし。^^

手習いの若先生・青野利一郎や、美人なのに痘痕を持つ女中のお勝や、偽坊主の行然坊など、脇役も揃ってきました。このシリーズは99話まで続けたいとのことですので、まだまだ楽しめそうです。最後の1話は読者自身の物語とすればいいんじゃないか・・だそうです。
2011/1