りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ひそやかな花園(角田光代)

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幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人の男女にとって、輝く夏の思い出は謎に満ちていました。父親たちは次第に参加しなくなり、最後には消滅した集まりについて、両親はその出来事をなかったことにしようとしているようなのです。

三月の招待状のように、学生時代のサークル仲間の集まりでは?と思っていましたが、事実はもっと衝撃的でした。7人は当時は先端的であり異端とされていた不妊治療の結果、生まれた子どもたちだったんですね。

その後は出会うこともなく別々の人生を歩んでいた7人は、30歳前後になって再開します。秘密を隠されていた者、打ち明けられていた者とさまざまでしたが、当時の両親の年齢に近くなっていた彼らは、あらためて家族の問題を考え始めます。

デザイン画家となった樹里は既婚ですが、母と同様に不妊の問題を抱えています。シンガーとなった波留は、遺伝性の疾患を指摘されて、発病を恐れています。既婚で娘もいる紀子は、夫に閉じ込められたような生活を息苦しく感じています。だらしない母親を持ち、友人もいない紗有美は、皆と仲良く過ごしたいだけ。

両親に去られたフリーターの雄一郎は、女の子に無償で宿泊場所を提供しています。広告代理店に勤務する賢人は、女性と本気でつきあえない悩みを抱えていました。御曹司の弾は、両親が手放したサマーキャンプ場所だった別荘を買い戻します。

それぞれが両親が抱えていた問題を自分の問題として理解し、受け止めていく過程が、本書の読ませどころですね。「歩きださなければ何も始まらなかった。どんな父親でも、どんな母親でも、私の世界を作ってくれてありがとう」との結末も予想外に爽やかです。母親が「無敵な気分」になるというのは、いいですね。^^

2011/1