前作でもそうでしたが、この方は、現代インドという舞台にマッチしたプロットを操るのが極めて巧みなんですね。本書でも、些細なことで女性を射殺しておきながら、富と権力とで無罪となった悪徳実業家に対して、それぞれ全く接点のない6人の登場人物の物語が、一点でクロスする「魔法」を見せてくれました。
悪徳実業家をパーティ会場で射殺したのは、いったい誰なのか。ガンジー交霊会の席でガンジーの魂(実は別の人物ですが)に乗り移られた、元大物官僚。マネージャーの罠にかかり、自分そっくりの貧しい娘に人生を乗っ取られていく人気女優。島から盗み出された聖なるリンガを取り戻すために、本土に密航してきた部族民。危ない大金を拾ったことから悪徳実業家の妹と出会い、身分違いの純愛に落ちた若い泥棒。インド人女性の結婚詐欺に引っ掛かってから、インドを転々としてきたアメリカの田舎者。そして、被害者自身の父親で、殺人を犯した息子を切り捨てる必要に迫られた大物政治家。
普通ではかなり無理なプロットも多いのですが、そこはインド。汚職にまみれた政治、腐敗した警察、カーストによる差別、宗教対立、そしてとてつもない貧富の差に加えて、魔術すら現実の一部となっている世界では、何でも起こり得るように思わせてくれます。
殺人に繋がる物語はどれで、ほんとうの犯人は誰なのか。容疑者たちの今後の人生はどうなるのか・・。
本書も映画化が決定しているようです。原作と全く違う物語にしてしまった映画の「スラムドッグ」には、がっかりしましたけど、こちらの方が映画化には向いているかもしれません。著者は現在、大阪で総領事を務めているとのこと。次の作品には、日本人も登場するのかも?
2011/1