りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

有村ちさとによると世界は(平山瑞穂)

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膨大な文字列からの情報抽出能力を持つものの、人間相手の意思疎通を苦手としている女性、有村ちさとが、個人情報漏洩事件に巻き込まれた顛末を描いたプロトコルの姉妹編でもあり、続編でもある作品。ちさとを巡る、父親、上司、妹の物語に加えて、「その後」のちさとが描かれます。

「青い草の国へ」
長い放浪生活に出ていた父親・騏一郎が、彼の頭の中に住みつき、旅に同行していたブラントン将軍をBlue Glass State(草原国)に送り届け、帰国を決意する物語。旅の終点は、ケンタッキー・バーボン、エンシェント・エイジの故郷である古い醸造所。騏一郎は、将軍が彼と世界の間に立って、はみ出た部分や歪んだ部分を受け止めてくれていた防御壁だったということに気付きます。

「オズのおまわりさん」
華のある理想の上司・村瀬瑛子課長でも、仕事と離婚と育児に悩んでいました。若い部下との社内恋愛に逃避しますが、恋愛に夢中で息子がイジメにあっていると気づかなかったことを反省します。でもあの課長が、ちさとに苦手意識があったとは・・。

「おんれいの復讐」
個人情報漏洩事件を起こした張本人で、楽天的で刹那的なダメ妹・ももかが、姉のちさとに寄せている微妙な愛憎と絶対的な信頼の物語。いつも、ちさとに迷惑をかけては逆恨みするももかにも、姉をいじめているという女性たちを呪いにかけた過去があったんですね。^^

「前世で逢えたら」
プロトコル』で知り合った沖津誠とは、似た者同士のいいカップルかと思ってましたが、ちさとは違和感を覚えてしまいます。悪い人ではないんですけどね。そんなときに出合ったのが、誠の友人で、売れないジャズ・ミュージシャンのマリオ。前世の因縁などという理屈に合わないことを言うマリオは、理論に凝り固まったちさとを、ほぐしてくれる存在なんですね。^^

ちさとの「新しいプロトコル」は、世界の豊かさや懐の深さに気付くことだったようです。姉妹編の本書まで含めて完結する「ちさとの成長物語」とは、予想外でした。

2011/1