りぼんの読書ノート

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神は銃弾(ボストン・テラン)

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最新作音もなく少女はで知った作家のデビュー作です。激しい憎悪と暴力と破壊に満ちた小説ですが、ここまで徹底するとむしろすがすがしい。最新作を先に読んでしまったため、後追い的な評価となってしまう部分もあるのですが、純文学的な香りに満ちている作風です。心理描写は全て行間に押し込めて、あくまでも行動と会話と風景描写によって物語を進めていく文体は、私の大好きな佐藤亜紀と共通するところがあります。

物語はシンプルなのです。残虐なカルト集団と対決する2人の男女の物語。デスクワーク警察官のボブは、彼らに連れ去られた娘ギャビを取り戻すために。かつて彼らの仲間であったケイスは、彼らと決着をつけて自分を取り戻すために。

どこかで聞いたことがあるようなストーリーですが、作品を包む思想は異なっています。ボブにも、ケイスにも、ギャビにも、かつての平穏な生活は二度ともどってきません。ひとたび凄まじい暴力と破壊を通過してしまった者たちは、新たな倫理の中で生きていかなければならないのです。

そこは「古き善き神」の慈愛など存在しない世界です。本書は、主人公が「神とは銃弾である」と言い切るようになるまでの張り詰めた緊張感を味わうための作品なのでしょうし、そこに至るまでの説得力は見事です。

2011/1