りぼんの読書ノート

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ゲド戦記④⑤⑥ (ル=グィン)再読

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このシリーズの凄いところは、前半3部作で作りあげた秩序と調和ある世界観を後半3部作になって自らの手で叩き壊してしまうところです。そこから生まれてくるものは混沌であるように見えるのですが、もちろん著者はその先を見据えています。

④帰還
第3巻の10年後に書かれましたが、時間的には直結しています。世界の均衡を取り戻すために全ての力を使い果たし、魔法の力すら失ったゲドは、戻ってきた生まれ故郷の島で、「腕輪のテナー」と再開します。農夫の妻としての人生を選び、子供たちを育てあげて未亡人となっていたテナーと結ばれ、穏やかな
生活を始めたゲドを、悪意に満ちた暴力が襲います。ゲドが闘ったのは、こんな世界を取り戻すためだったのでしょうか・・。

⑤ドラゴンフライ
外伝的な中短編集です。ローク魔法学院の黎明期を描いた「カワウソ」、ゲドの師であるオジオンが師へレスとともに大地震を鎮めた「地の骨」、ゲドの大賢人時代のエピソード「湿原で」などが収録されていますが、「ドラゴンフライ」は第6巻に繋がっていきます。不思議な力を持つ少女アイリアンが女人禁制の魔法学園に入り、龍として覚醒する物語。

アースシーの風
世界の秩序と調和を保ってきた魔法の力は「正義」とされていたのですが、ここで全てが覆されます。魔法から締め出されてきた女性、異教徒、さらには龍から起きた「魔法による理想郷」への批判が、これまでの世界観や死生観を一変させるのです。物語の中心もゲドやテナーから、2人の養女となっていた少女テルーへと移っています。

長い年月をかけて紡がれた物語はここで終わるのですが、近作の「西のはての年代記」3部作(『ギフト』、『ヴォイス』、『パワー』)は、続編として位置づけられるものかもしれません。そこでは、魔法の力は醜く矮小なものになっているのです。

2011/9