りぼんの読書ノート

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ゲド戦記5 アースシーの風(ル=グィン)

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「思想が、ファンタジーを台無しにした」などと、一部の読者からは酷評されることもある第5巻です。でも、この1冊が、シリーズ全体の価値を高めていますね。「ファンタジーを超えた」というのが正当な評価でしょう。

第4巻からは、さらに15年がたっています。ゲドの年齢はわからないのですが、妻となったテナーは54歳。娘として育てている、大火傷の少女テナハーは20歳くらいでしょうか。

アースシーの世界に、再び異変が起こり始めます。妻を亡くした男・ハンノキは、かつてゲドとアランが閉ざした死者の世界からしきりに何かを訴える妻の夢に苦しめられ、西方の島々では太古の伝説以来、再び竜が暴れはじめ、東方の帝国からは王の結婚相手にと娘が差し出されて来る。

どうやら全ては繋がっているようです。かつて人間と竜が交わした約束とは何だったのか。なぜ東方の人間は「死者の世界」を信じていないのか。そもそも「竜」とはなにものなのか。そこで魔法はいったいどんな役割を果たしたのか。さまざまな人々が再結集して、ついに、答えへの鍵が導かれます。老いたゲドが、脇役に徹しているのには寂しさを感じますが・・。

第4巻以降の主人公は、完全に「腕輪のテナー」と女性たちですね。アースシー世界に「女の魔法使い」が存在していないということも、ここにきてがぜん意味を持つようになってきた・・と思われます。

古典と言われるファンタジーの大半が「善悪二元論」で書かれている中で、「人間の負の部分」を認識させるこのシリーズは異彩を放っています。何十年もかけて綴られてきたことと無縁ではありませんね。それは作者が、生涯をかけて到達した地点なのでしょうから。

2006/8