りぼんの読書ノート

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ウルトラダラー(手嶋龍一)

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「ドキュメンタリー・ノヴェル」とのことですが、個々の情報は前NHKワシントン支局長である著者のアンテナが拾いあげたものかもしれません。それらを総合して作り上げた「仮設」が未検証ということなのでしょう。

いかにも、ありそうな話なのです。
・35年前に日本から拉致された、腕のいい彫刻職人。
・ロシアで消息を絶った、最新の印刷技術を持つ企業家。
・分解され、スクラップとして密輸された、紙幣印刷機
・USドル紙幣用の特殊用紙会社に忍び込む、産業スパイ。
・不倫写真で強請られる、ハイテク偽札検出器会社の社長。
そして、超精巧な偽ドル札「ウルトラダラー」が登場します。

これらを総合して得られる推論は・・。もちろん、某国の国家ぐるみの犯罪という「仮説」です。某国はウルトラダラーを使い、核弾頭装備可能な巡航ミサイルを購入しようとします。それを阻止する側の情報活動が本書の「小説的部分」ですが、そこはお世辞にも良く書けているとは言いがたい。登場人物がみんなギクシャクしてる感じがします。

でも、そこからもう一歩踏み込むところに、本書の価値があるのでしょう。北の某国のウルトラダラーも核装備も、別の超大国が国際政治の均衡を保つために、実行させたものではないかという推論には、深読みすればありそうな話なだけに、怖いものがあります。日本の情報戦略が、報道されているだけの無邪気な存在でしかないなら、ひとたまりもないのかもしれません。

2007/1